2025.1.10付 繊研新聞に掲載していただきました。
以下、転載。
シルク軸に企業を安定成長へ
今年、創業から60周年を迎える長谷川商店。シルクを強みに、原料から糸、生地、製品へと扱う商品を広げてきた。創業者の長谷川勝前社長はシルク原料商からスタートし、欧米など海外に市場を広げた。21年に社長に就任した長女の長谷川容子さんは、長谷川新吾副社長とともに商品企画や海外市場の開拓などで長年創業者を支えてきた。最近では若い社員も増え、業容は拡大した。一方で創業以来の事業の核であるシルクの重要性は変わらない。シルクの優れた機能や感性を発信し、企業としての安定した成長を目指している。
糸、生地、製品へ扱い広げる
長谷川商店の歴史と長谷川社長入社後の歩みは。
当社はシルクの原料商として、父親の長谷川勝が創業しました。私は英国に留学していたのですが、その頃から先代は開発糸を持って欧州市場の開拓に回っていました。時々私が通訳として出張に同行したというのが、長谷川商店、そして長谷川商店のコアビジネスであるシルク素材との出合いです。
当社は、海外の展示会にも積極的に参加するようになりました。イタリアのフィーロからパリのエキスポフィル、イタリアのニット糸展ピッティ・フィラ―ティへとサンプルを持って参加。提案を積極的に行い、海外市場の販売が増えていきました。
並行し、高級メゾンやハイブランドをはじめとした外国のお客様が増えています。さらに海外顧客から「この個性的な糸を理解するためにも編み地で見たい」という要望が増えてきました。要望されて開発した編み地そのものも商品として提案するようになりました。
糸を単体で見せるだけではなく、編み地での変化を訴える、製品の仕立て映えを表現する。この要望に応えるために「企画マップを構成して提案資料を作る」という、これまでにない仕事が増えてきました。そこで私が任されたのが企画部門です。その後に「海外向けが増えたから企画部門を整備しなければならない」として、企画全般を任されるようになりました。
最初の頃は、シルクという繊維にそれほど詳しくありませんでした。しかしあるとき欧州のハイブランドショップで、当社の糸を使ったセーターが大変な高額で売られていたのを発見しました。「高価でも価値を認めて買ってもらえるのだ」と感心しました。そしてこのシルクが持つ感性を、もっと色々な形で知ってもらわなければと考えるようになりました。
当社は原料商から始まり、販売を国内から海外に広げ、その間にお客様の要望を受けて、編み地、そして製品へと扱いを広げてきました。シルクの専門家としてシルクの良さを伝えていくうちに、自然にそうなったのではないでしょうか。
撚糸機や自動編み機など設備も導入していった。
創業者の考え方が大きく影響していると感じています。先代社長は「スピードが大事だ」と言い、付加価値を高める機能を強化しようと、生産や加工の設備を増やしてきました。15年には島精機製作所の無縫製横編み機「ホールガーメント」を10台導入しました。尾州地域ではおそらく初めての大規模導入ではなかったかと思います。セーターやマフラーやショール、靴下、帽子などのニット製品を幅広く作れるようになりました。
19年にはオンラインショップを立ち上げました。しかし、立ち上げ早々にコロナ禍に直面しました。商いがストップし、生地の在庫が膨れ上がりました。そこで考えたのがシルクのマスクです。マスクとしては高い商品ですが、シルクの保湿性やUV(紫外線)カット機能などが肌に良いと評判を呼び、大ヒットしました。
コロナ禍では”ウチ消費”が広がりました。「自分で作って楽しめるように」と、マスクのキットも販売しました。
21年に経営のかじ取りを任された。
業界ではカリスマ的な存在だった先代社長の後を引き継ぎ、これから長谷川商店というシルク企業をどう経営していこうかと考えました。
第一の目標としたのが、「家業から企業にする」ということです。私の役割は組織として会社を育て、次の世代に引き継ぐことだと考えました。創業時に比べ所帯も大きくなりました。創業者の考え方に新しい企業哲学を加え、さらに発展したいと考えました。そこで取り組んだのがブランディングです。
22年に工場のリノベーションを行いましたが、次いでフィロソフィーは創業者からのチャレンジ精神を受け継ぎ、シルクの最前線でどこよりも早く当社の感動を提供し、その上で関係性を継続する。ビジョンとして人の心を豊かにする新鮮な感動を提供し、その上で関係性を継続する。ビジョンとして人の心を豊かにする新鮮な感動を創造し、顧客感度を高めながら「感動文化」の一翼を担う。ミッションはシルクの可能性を信じてすべてのお客様に感動の付加価値を伝える。これが柱です。
長谷川の頭文字の「H」に二つの感嘆符を付け、感動を表す新ロゴマークも作りました。当社の商品や考え方を伝える場でもある本社内のショップのロゴマークも「&」「糸」「〇」を1本のラインで結び、肌から心に広がる豊かさを表現しました。
「旅するシルク」プロジェクトも始めた。
「シルクを語れるようになりたい」。これが大きな動機です。きっかけは、社長就任後にテレビショッピングでうまく説明ができなかったことです。「これではシルクの良さが伝えられない」と思いました。当社の創業者から受け継いだDNAの一つで、「とにかく早く、まず手を動かす、形にしてから改善する」というものがあります。
それなら社長自らが47都道府県を回り、店を開き、シルクの特徴を説明しながら商品を売っていこうと考えたのです。23年5月から始めた「旅するシルク」は、週末2日間の限定で店を開きます。
若手社員を1人連れ、約30ケースの荷物を発送から設営、撤収、返送という運営をすべて自分たちで行います。現在34回行いました。残りを今年の創業60年前に回りきるという目標でしたが、少しずれそうですが早い時期に完走しそうです。
初日に来店したお客様が次の日にも来店することが、住々にしてあります。社長就任時に考えた「感動の共感」の輪が実現できたと感じた瞬間でした。
サステイナブルなライフスタイル提案も重要だと感じています。シルクは持続可能な天然資源です。また、微生物に分解され自然に土に戻ります。それを訴えると同時に製造業として避けられない残糸を有効活用し「三種のシルクキット」にして販売、シルクのサステイナブル性を提案しています。